『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 その日以来、その土曜日の夜以来、母とは口をきかなくなりました。
 高校に行く気が起らなくなりました。
 バイトも辞めました。
 もうどうでもよくなったのです。
 抜け殻のような時間をただ浪費するばかりでした。
 
 12月も半ばになった頃、医師から手紙が来ました。
 正月休みが始まる12月30日に身内だけの結婚式を挙げて、その日の夜便でハワイに発ち、1月4日に帰ってくると書いてありました。
 わたしは吐き気を覚えて、その場で破り捨てました。
 
 その翌日、1時間以上電車に乗って見知らぬ町へ行き、駅前で不動産会社を探しました。
 全部で4軒回りましたが、賃貸契約するには住民票と印鑑証明と連帯保証人が必要であることをどの店でも言われました。
 連帯保証人はいないと告げると、賃貸保証会社との契約が必要だと言われました。
 現在休職中で収入がないと伝えると、契約は難しいと言われました。
 それなら1年分前払いするからと言ったら、最後に訪ねた不動産会社だけが可能だという返事を返してきました。
 年内に入居可能な物件を3軒見て回り、その中から家賃6万円のシャワー付きアパートの1階を借りることに決めました。
 その翌日、市役所へ行って転出届を出しました。
 そして、転居に伴う諸々のことを片づけて行きました。

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