後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
          ♫ 女 ♫

 わたしは誰?
 わたしは誰??
 わたしは誰???

 問いかけても答えてくれる人はいない。

 わたしはピアニスト。

 ラウンジに目をやり、鍵盤の上に赤いキーカバーを被せながら呟いた。

 でも、誰からも拍手を貰えないピアニスト。
 
 小さな溜息と共に鍵盤の蓋を降ろし、ラウンジに一礼した。

 わたしは誰?

 ホテルを出てもう一度問うたが、その声を風がさらっていった。

 わたしはピアニスト。

 言い聞かせるように呟いた時、冷たい空気がうなじから忍び込んできた。
 急いでコートの襟を立てて首の前を閉じるようにしっかり合わせたが、寒さは消えなかった。
 心の中に寒風が吹いていた。
 冷たい風を防ぐコートの襟は心の中にはなかった。

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