後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 その夜、自分の叫び声で目が覚めました。
 ヤメテ! と叫んでいました。
 リサイクルショップの主人に体を触られている夢を見たのです。
 上半身が汗びっしょりになっていました。
 冷気の中で体が凍えそうになっていました。
 慌てて電気ストーブのスイッチを入れ、下着と服を脱ぎ、体を拭いて新しい下着と服に着替えました。
 それで体の震えは止まりましたが、心の震えは続いていました。
 現実だけでなく夢の中でも被害に遭うなんて信じられませんでした。
「まさか、トラウマ?」と思わず呟いていました。
 すると、昨日の出来事が蘇ってきました。
 首筋にキスをされた感触、尻を触られた感触、胸を揉まれた感触、すべて蘇ってきました。
 
 ウワ~! と叫んでシャワールームに飛び込みました。
 シャワーを全開にしたあと、さっき着た服を急いで脱ぎ捨てて頭から浴びました。
 そして全身を泡で洗いました。
 首筋と尻と胸は赤くなるほど強く擦って洗いました。
 バカヤロー! 
 チクショー! 
 死ねー! 
 と大声で叫びながら洗い続けました。
 しかし気持ち悪い感触が消えることはありませんでした。
 あの時殺しておけばよかったと思うと、包丁を握っていた時の右手の感触が蘇ってきました。
 あいつの心臓を突き刺すようにシャワーヘッドを掴んでグイと前に突き出しました。
 しかし、手応えは何もありませんでした。
 目がジワーッと熱くなったと思ったら、涙が止まらなくなりました。
 肩の震えも止まらなくなりました。
 泣きながらシャワーを浴び続けました。

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