後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
最寄り駅に着いた。
品川駅だった。
夜9時を過ぎているのに駅の改札口は真昼のように明るく、群れのようになった人々がホームに向かって急いでいた。
女は温かさが欲しかった。
だから改札口を右手に見ながら港南口へ向かい、隣接する商業ビルに入った。
3階にあるこじんまりとしたコーヒーショップに入ってカウンターに座った。
その途端、誰かの名前が呼ばれた。
つられて店内を見回すと、若い女性が手を上げていた。
すぐに店員がコーヒーを運んできた。
この店は入店すると最初に注文と会計を済ませて名前を登録する決まりになっているのだ。
少しして女の名前が呼ばれた。
「ストレンジャー様」
手を上げると隣に座る若い男性に顔をしげしげと見つめられたが、それに気付かぬふりをして店員からカプチーノを受け取った。
ラテアートが素敵だった。
四つ葉のクローバーが浮かんでいた。
わたしは誰?
四つ葉のクローバーに問いかけた。
しかし、クローバーは何も言ってくれなかった。
いいのよ、答えなくても。
それでも暫くクローバーを見つめていると、その姿が崩れ始めた時、囁くような声が聞こえた。
あなたはあなたよ。
女はクローバーが形を失っていくのをじっと見ていた。
すると、跡形もなく消える寸前、遺言のような囁きが耳に届いた。
あなたはあなたよ。
女は静かに頷いた。
そうね、わたしはわたしね。
心の中が少し温かくなった。
カップの取っ手をつまんで口に運ぶと、深煎りらしいビターな味がした。
それがミルクと交じり合ってマイルドに変化し、優しい風味となって喉を通っていった。
あなたはあなたよ。
胃の中から声が聞こえた。
すると、頭の中にあのメロディが浮かんできた。
品川駅だった。
夜9時を過ぎているのに駅の改札口は真昼のように明るく、群れのようになった人々がホームに向かって急いでいた。
女は温かさが欲しかった。
だから改札口を右手に見ながら港南口へ向かい、隣接する商業ビルに入った。
3階にあるこじんまりとしたコーヒーショップに入ってカウンターに座った。
その途端、誰かの名前が呼ばれた。
つられて店内を見回すと、若い女性が手を上げていた。
すぐに店員がコーヒーを運んできた。
この店は入店すると最初に注文と会計を済ませて名前を登録する決まりになっているのだ。
少しして女の名前が呼ばれた。
「ストレンジャー様」
手を上げると隣に座る若い男性に顔をしげしげと見つめられたが、それに気付かぬふりをして店員からカプチーノを受け取った。
ラテアートが素敵だった。
四つ葉のクローバーが浮かんでいた。
わたしは誰?
四つ葉のクローバーに問いかけた。
しかし、クローバーは何も言ってくれなかった。
いいのよ、答えなくても。
それでも暫くクローバーを見つめていると、その姿が崩れ始めた時、囁くような声が聞こえた。
あなたはあなたよ。
女はクローバーが形を失っていくのをじっと見ていた。
すると、跡形もなく消える寸前、遺言のような囁きが耳に届いた。
あなたはあなたよ。
女は静かに頷いた。
そうね、わたしはわたしね。
心の中が少し温かくなった。
カップの取っ手をつまんで口に運ぶと、深煎りらしいビターな味がした。
それがミルクと交じり合ってマイルドに変化し、優しい風味となって喉を通っていった。
あなたはあなたよ。
胃の中から声が聞こえた。
すると、頭の中にあのメロディが浮かんできた。