後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 目が覚めると朝になっていました。
 10時間以上も爆睡していたようです。
 寝袋の中が温かいのでもっと眠っていたかったのですが、膀胱がそれを許しませんでした。
 内股になってトイレに急ぐと、オシッコだけするつもりがお通じまであったので、余りの気持ち良さに便座から暫く動けなくなりました。
 
 でもその余韻をお腹の虫が打ち消しました。
 幸せホルモンの大量放出を中断されて後ろ髪を引かれる思いでしたが、空腹には勝てず、急いでご飯を炊いて、残しておいた白菜の浅漬けと梅干で大盛り2杯を平らげました。

 満腹至福になったわたしはインスタントコーヒーを入れて、CDをかけました。
 甘いメロディが流れてきました。
『SHE』でした。

 ロンドンのノッティングヒルで男女が出会いました。
 小さな本屋を営む男と世界で一番有名な女優でした。
 恋に落ちるのに時間はかかりませんでしたが、住む世界が余りにも違い過ぎると弱気になった男は身を引く決断をしてしまいました。
 でも……、
 
 ヒュー・グラントとジュリア・ロバーツ主演の映画『ノッティングヒルの恋人』の主題歌が『SHE』でした。
 高校に通っていた頃、レンタルショップで借りて見たDVDの感動とエルビス・コステロの切ない歌声が蘇ってきました。
 ピアノのメロディに合わせてハミングしたわたしは、目の前に浮かんだヒュー・グラントを思わずギュッと抱きしめてしまいました。

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