後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
銀行を出ると、駅前のロータリーを渡って駅の構内に入り、ぶらぶらと歩きました。
それほど広くはありませんでしたが、それでも色々な店が通行人を待ち構えていました。
ファンシーショップを覗いていると、どこからか音が聞こえてきました。
ピアノの音でした。
音のする方へ歩いていくと、『ふれあい広場』という表示が見えました。
その正面の壁にアップライトピアノが置いてあり、白髪の男性が片手で弾いていました。
童謡でした。
『どんぐりころころ』
傍らに立つ小さな女の子がピアノに合わせて歌っていて、舌ったらずな歌声が可愛くて聴き惚れてしまいました。
歌い終わった時、後方のベンチに座っていた女性が拍手をしました。
お母さんのようでした。
立ち上がって近づいて女の子の頭を撫でると、嬉しそうにぴょんと跳ねてお母さんに抱きつきました。
そして顔を見上げながら「おじいちゃん、ピアノ上手だね」と言ってまたぴょんと跳ねました。
お爺ちゃんは嬉しそうに頬を緩めて立ち上がりました。
「さあ、行きましょ」と声をかけられた女の子は、右手を母親に、左手をお爺ちゃんに繋がれてスキップするように歩きだしました。
その姿を見ていると、幼い頃の記憶が蘇ってきました。
わたしの両手を持つ父と母の手の感触でした。
それは家族3人の幸せな記憶でした。そして、世界一幸せな記憶でした。
誰かが横を通り過ぎた時に現実に引き戻されましたが、ピアノを見ると他に誰も弾く人がいないようなので、ちょっと躊躇いましたがピアノチェアに腰かけて鍵盤に指を置きました。
すると、何を弾こうかと考える間もなく指が動き出しました。
『SHE』でした。
譜面がなくても指が覚えていました。
弾いていると歌詞が頭に浮かんできましたが、いつの間にか『SHE』が『DAD』に変わっていました。
お父さん、と呟きながら、天国に向かってピアノを弾き続けました。
それほど広くはありませんでしたが、それでも色々な店が通行人を待ち構えていました。
ファンシーショップを覗いていると、どこからか音が聞こえてきました。
ピアノの音でした。
音のする方へ歩いていくと、『ふれあい広場』という表示が見えました。
その正面の壁にアップライトピアノが置いてあり、白髪の男性が片手で弾いていました。
童謡でした。
『どんぐりころころ』
傍らに立つ小さな女の子がピアノに合わせて歌っていて、舌ったらずな歌声が可愛くて聴き惚れてしまいました。
歌い終わった時、後方のベンチに座っていた女性が拍手をしました。
お母さんのようでした。
立ち上がって近づいて女の子の頭を撫でると、嬉しそうにぴょんと跳ねてお母さんに抱きつきました。
そして顔を見上げながら「おじいちゃん、ピアノ上手だね」と言ってまたぴょんと跳ねました。
お爺ちゃんは嬉しそうに頬を緩めて立ち上がりました。
「さあ、行きましょ」と声をかけられた女の子は、右手を母親に、左手をお爺ちゃんに繋がれてスキップするように歩きだしました。
その姿を見ていると、幼い頃の記憶が蘇ってきました。
わたしの両手を持つ父と母の手の感触でした。
それは家族3人の幸せな記憶でした。そして、世界一幸せな記憶でした。
誰かが横を通り過ぎた時に現実に引き戻されましたが、ピアノを見ると他に誰も弾く人がいないようなので、ちょっと躊躇いましたがピアノチェアに腰かけて鍵盤に指を置きました。
すると、何を弾こうかと考える間もなく指が動き出しました。
『SHE』でした。
譜面がなくても指が覚えていました。
弾いていると歌詞が頭に浮かんできましたが、いつの間にか『SHE』が『DAD』に変わっていました。
お父さん、と呟きながら、天国に向かってピアノを弾き続けました。