後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 翌日の空は悲しげに曇っていました。
 椅子に座ると、テーブルの上にある封筒がわたしを見つめていました。
 手に取りましたが、すぐに戻しました。
 でも、もう一度手に取りました。
 破るためです。
 でも破れませんでした。
 開けることも破ることもできず、気が変になりそうでした。
 いたたまれなくなって部屋を飛び出しました。
 
 どういう訳か足は隣町へ向かっていました。
 でも、今までと違って通り過ぎる景色はすべて灰色に見えました。
 錐体(すいたい)細胞が脳にグレーの信号しか送っていないのではないかと思うくらいでした。
 モノクロの世界の中を歩き続けました。
 
 気がつくと、リサイクルショップの前に立っていました。
 店先に並んだその商品を見た途端、目に色彩が戻ってきました。
 真っ赤に塗られた自転車に釘付けになったのです。
 それは新品みたいにピカピカと光っていました。
 思わず近づいて値札を見ると、8,400円と手書き文字で書かれていました。
 中古にしては結構高いと思いました。
 新品でも1万円位で売っていますから。

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