『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 楽器店へ急ぎました。
 昨日試し弾きをさせてくれた大きな楽器店です。
 
 中に入ると、店の人が、あらっ、というような顔で迎えてくれました。
 2日続けて来る客は珍しいと言われました。
 もう一度試し弾きをさせて欲しいとお願いすると、好きなだけどうぞ、と言われました。
 
 電子ピアノを片っ端から弾き比べました。
 当然のことながら、音の良さは値段と比例していました。
 気に入ったピアノのプライスカードを見る度に大きな溜息が出ました。
 とても手が出る値段ではなかったからです。
 でも、中途半端な物は買いたくありませんでした。
 他の楽器店で探すしかないかと諦めかけた時、隅に置かれている1台のピアノがわたしにオイデオイデをしているように感じました。
 近づくと、プレートに〈現品限り〉と書いてありました。
 値段は税込み189,000円でした。
 
 弾かせてもらうと、素晴らしい音でした。
「型落ちの展示品ですが、お値打ち品ですよ」と店員が説明してくれましたが、その言葉に嘘はないと思いました。
 木製鍵盤のタッチが素晴らしかったからです。
 まるでグランドピアノを弾いているような豊かな響きを実感しました。
 迷わず決めました。

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