後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 読み終わったあと、何も考えられなくなりました。
 ボーっとして、動くこともできなくなりました。
 目は開けていましたが、何も見ていませんでした。
 
 右手に痺れを感じて我に返りました。
 ずっと手紙を持ち続けていたようです。
 落とすように机に置くと、メモが目に入りました。
 左手で取って読み返しました。
 
『高校卒業おめでとう。あなたと一緒に祝えれば良かったのだけど。少しだけど生活費の足しにしてください。体に気をつけて。ダメな母親でごめんなさい。さようなら。母』

 心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けました。
 目は〈ダメな母親でごめんなさい。さようなら。〉という部分に釘付けになっていました。
 
 これって……、
 もしかして、別れの言葉? 
 それも、永遠の?  
 それって……、
 事故ではなくて自殺? 
 えっ? 
 わたしに会えなかったから? 
 わたしが無視したから? 
 わたしが許さなかったから? 
 わたしが戻らなかったから? 
 そんな……、
 もしかして、
 わたしが母を追い詰めたの? 
 死に追いやったの?
 殺したの? 
 うそ! 
 
 頭の中がかき混ぜられてぐちゃぐちゃになりました。
 手が震えてきて、メモが一緒に震えていました。
 怖くなってメモをゴミ箱に捨てようとしましたが、うまく捨てることができず、机の角に当たって畳に落ちてしまいました。
 手を伸ばして拾おうとしてゾッとしました。
 メモが睨んでいたからです。
 それだけではありません。
 お前が母親を殺した! と追及するような声が聞こえたような気がしたのです。

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