後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 ヤメテ! と叫んで、踏みつけました。
 足の裏でぐしゃぐしゃにしました。
 足を上げると、メモは破れて原形をとどめていませんでした。
 息絶えたと思いました。
 でも、声は耳の奥でこだましていました。
 お前が殺した! 
 お前が殺した!! 
 お前が殺した!!!
 
 急いでゴミ箱に捨てました。
 すると、がさっと動いて、また声が聞こえました。
 お前が殺した!!!! 
 息絶えていませんでした。
 もう一度拾い上げて、細かくビリビリにちぎりました。
 字が見えなくなるまでビリビリにちぎりました。
 今度は完全に息の根を止めました。
 
 粗い息のまま椅子に座り直しました。
 そして、母の顔を思い出そうとしました。
 でも、思い出すことはできませんでした。
 母は、この世からも記憶からも消えていました。
 
 気づいたら自転車に飛び乗っていました。
 あれからずっと起きていたのか、眠っていたのかわかりませんが、とにかく日は昇り、わたしは自転車を漕いでいました。
 飛び跳ねるようにペダルを漕ぐと、ショルダーバッグの中で小さな封筒が音を立てました。20万円が入った封筒です。

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