『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 男は即行で岩手に向かった。
 現地・現物・現実を確認するためだ。
 信頼している社員の報告とはいえ、自らの目で確かめずに決断を下すことはできない。
 
 4月3日の昼、現地に到着した男はオーナーの案内でビニールハウスを見て回った。
 大型のハウスが10棟あった。
 敷地面積は2,000坪を超えているという。
 生産品種はトマトと青物野菜が半々ということだった。
 その場でトマトを食べさせてもらった。
 丸かじりがおいしいと言われたので、がぶっといったが、程よい酸味と上品な甘みに感動した。
 それに、有機肥料と無農薬で栽培しているので、安心と安全も併せてお届けしていると強調された。
 更に、清潔な環境を心がけていると言うだけあって、ハウス内は汚れもゴミもなく、隅々まで管理が行き届いているようだった。
 これなら社員を働かせても大丈夫だ。
 オーナーの人柄と労働環境に惚れたのでほとんど心は決まったが、もう一つの条件を確認しなければ最終判断はできない。
 古民家だ。
 早速、案内を頼んだ。

< 175 / 368 >

この作品をシェア

pagetop