後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
そのままアパートに帰る気になれなかったので花屋敷に立ち寄ると、退院して家に戻ってきた奥さんが庭で〈カランコエ〉の花がらを摘んでいた。
女が声をかけると、あらっというような表情になって手招きをした。
女は庭に入って奥さんと並んで花がら摘みを手伝った。
ピンクの花を手にした奥さんの横で黄色のそれを摘んでいると、「カランコエの原産地って知ってる?」と女の顔を覗き込んだ。
「さあ……」
頭の中には何も思い浮かんでこなかった。
「マダガスカルなの」
一瞬世界地図を思い浮かべたが、どこにあるのかわからなかった。
「アフリカ大陸の西に浮かぶ島よ」
そう言われてもピンとこなかった。
「アニメの映画見たことない?」
あっ!
一気にマダガスカルが身近になった。
ニューヨークの動物園からケニアに送り返される途中で船にアクシデントがあり、流れ着いた島がマダガスカルだった。
確か、ライオンとシマウマとキリンとカバだったような……、
10年以上前に見た映画のシーンを必死になって思い出そうとした。
「あの映画が大好きでシリーズを全部見たのよ」
続編は、2と3とスピンオフ作品があってどれも面白かったと笑った。
女は最初のしか見たことがなかった。
「夫も大好きで、特にシマウマのマーティーの大ファンだったわ。面白いことを言う度に笑い転げて……」
そこで途切れた。
心配になって奥さんの顔を見ると、暗い影が射していた。
何か声をかけたかったが、言葉が何も見つからなかった。
カランコエの花がらを黙々と摘んだ。
暫くして奥さんに声が戻ってきた。
「何をしても、何を見ても思い出すの」
辛そうな声だった。
「毎朝起きる度にふっと帰ってくるような気がしてね、でも、夜になっても帰ってこないの……」
深い溜息が漏れた。
「残された身は辛いわね」
胸が締め付けられた。
「ごめんなさい、こんなこと話すつもりじゃなかったのに……」
女は大きく首を横に振った。
「あなたも私と同じなのにね」
父と母の顔が瞼に浮かぶと、気持ちが重たくなってきた。
するとそれを察したのか奥さんはいきなり立ち上がって、う~ん、と背伸びをしたあと、女に向き直った。
「お昼ごはん一緒にどう?」
女は頷くと共に庭に入る前に玄関ドアに引っ掛けておいたビニール袋を思い出した。
パンが2つ入っているビニール袋だ。
今日店から貰ったのは『熟成ミルク食パン』と『マロンデニッシュ』だった。
「それなら、フルーツサラダとミルクティーでいただくのはどう?」
異論があるはずはなかった。
思わずくりくりっと目が動いた。
「決まりね。では、ガーデンランチといきましょ」
女が声をかけると、あらっというような表情になって手招きをした。
女は庭に入って奥さんと並んで花がら摘みを手伝った。
ピンクの花を手にした奥さんの横で黄色のそれを摘んでいると、「カランコエの原産地って知ってる?」と女の顔を覗き込んだ。
「さあ……」
頭の中には何も思い浮かんでこなかった。
「マダガスカルなの」
一瞬世界地図を思い浮かべたが、どこにあるのかわからなかった。
「アフリカ大陸の西に浮かぶ島よ」
そう言われてもピンとこなかった。
「アニメの映画見たことない?」
あっ!
一気にマダガスカルが身近になった。
ニューヨークの動物園からケニアに送り返される途中で船にアクシデントがあり、流れ着いた島がマダガスカルだった。
確か、ライオンとシマウマとキリンとカバだったような……、
10年以上前に見た映画のシーンを必死になって思い出そうとした。
「あの映画が大好きでシリーズを全部見たのよ」
続編は、2と3とスピンオフ作品があってどれも面白かったと笑った。
女は最初のしか見たことがなかった。
「夫も大好きで、特にシマウマのマーティーの大ファンだったわ。面白いことを言う度に笑い転げて……」
そこで途切れた。
心配になって奥さんの顔を見ると、暗い影が射していた。
何か声をかけたかったが、言葉が何も見つからなかった。
カランコエの花がらを黙々と摘んだ。
暫くして奥さんに声が戻ってきた。
「何をしても、何を見ても思い出すの」
辛そうな声だった。
「毎朝起きる度にふっと帰ってくるような気がしてね、でも、夜になっても帰ってこないの……」
深い溜息が漏れた。
「残された身は辛いわね」
胸が締め付けられた。
「ごめんなさい、こんなこと話すつもりじゃなかったのに……」
女は大きく首を横に振った。
「あなたも私と同じなのにね」
父と母の顔が瞼に浮かぶと、気持ちが重たくなってきた。
するとそれを察したのか奥さんはいきなり立ち上がって、う~ん、と背伸びをしたあと、女に向き直った。
「お昼ごはん一緒にどう?」
女は頷くと共に庭に入る前に玄関ドアに引っ掛けておいたビニール袋を思い出した。
パンが2つ入っているビニール袋だ。
今日店から貰ったのは『熟成ミルク食パン』と『マロンデニッシュ』だった。
「それなら、フルーツサラダとミルクティーでいただくのはどう?」
異論があるはずはなかった。
思わずくりくりっと目が動いた。
「決まりね。では、ガーデンランチといきましょ」