後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 ポカンとした表情で見送ったアルバイト3人は、ふと現実に戻って青ざめた顔でお互いを見つめ合った。
 店を閉めるということは、その間の収入が途絶えてしまうことを意味している。
 大変なことになってしまった。
 ホテルに続いてベーカリーまでも……、
 女は立っているのがやっとだった。
 
「どうしよう……」
 大学生が涙をためていた。
 秋田から上京した彼女は、親の仕送りだけでは生活ができず、アルバイトで凌いでいたのだ。
 午前中のベーカリーと夜の居酒屋のアルバイトで家賃と授業料以外の費用を賄っていた。
 しかし、4月10日の都の緊急事態措置によって居酒屋の営業時間が夜8時までとなり、収入が激減することになった。
 その上、ベーカリーが休業になって暫くの間アルバイト料を稼げなくなった。
 貯金がほとんどない彼女にとって最悪のシナリオが目の前に現れたのだ。
 彼女も立っているのがやっとの様子だった。
 シャッターにもたれかかってなんとか体を支えていた。

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