後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 ビールを飲もう! 
 突然思い立った。
 アルコールで恐怖心を中和させるのだ。
 よし、そうしよう。
 冷蔵庫から発泡酒を取り出してプシュッと開け、グビッと飲んだ。
 喉越し最高! 
 それに、すきっ腹に沁みる! 
 もう一口グビッと飲むと、少し神経が緩んできた。
 すると腹の虫が催促の声を上げた。
 卵かけ納豆ご飯を一気に掻き込んだ。
 
 発泡酒と卵かけ納豆ご飯でひと息ついたので、これからのことを考えた。
 当面の問題は2週間をどうやって乗り切るかだ。
 家の中の食材ではとても足りない。
 といって、不要不急の外出禁止を要請されている身としては、おいそれとスーパーに買い物に行くわけにはいかない。
 罹患者(りかんしゃ)ではないのだから少しくらいは、と思わないでもなかったが、「人様のご迷惑になることはしてはいけない」と幼い頃から教え込まれていたので、父親の顔が瞼に浮かんだ瞬間、良からぬ考えを頭から追い出した。
 
 もう一度冷蔵庫の扉を開けた。
 最後の発泡酒を取り出し、躊躇わずプシュッと開けた。
 グビグビグビグビッと喉に流し込んだ。恐怖心を飲み込むように、もう一度グビグビグビグビッと一気に流し込んだ。
 すると、恐怖心が胃の中に落ち、怯えがげっぷと共に口から出て行った。
 
 先ずは2週間。
 そのあとのことはその時のこと! 
 頬をパンパンと叩いて気合を入れて自らに言い聞かせた。


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