後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 今回はV字回復というシナリオを描くことはできないと思った。
 重いボディーブローを受け続けるような試練が長く続くと思った。
 緊急事態宣言はいつか解除されるだろう。
 しかし、ストックを使い果たした企業や個人が這い上がっていくのは難しい。
 何故なら、需要が一気に回復しないからだ。
 9割減から7割減、そして、5割減と少しずつの回復ではお金が回らないのだ。
 支払いができないのだ。
 借金が返せないのだ。
 それは、縮小退場を意味している。
 緊急事態宣言明けの倒産は多くはないだろう。
 しかし、日を追って増えていくのは目に見えている。
 なんとか踏ん張っている企業が弱い順に息切れしていくのだ。
 あそこも、ここも、あっちも、そっちも、とバタバタ倒れていくようになるのだ。
 時間をかけて真綿で首を絞めるように、徐々に徐々に息絶えていくのだ。
 
 我が社は? 
 パソコンに表示された〈売上ゼロ〉の文字が男の瞳を突き刺した。


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