『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 途轍(とてつ)もなく長い2週間が終わった。
 幸い、ベーカリーの奥さんもアルバイトも全員無症状で過ごすことができた。
 ほっとしたが、しかし、陰性の証明を貰ったわけではない。
 無症状であったというだけだ。
 奥さんは検査を受けて陰性という事実を確認したかったが、「無症状の人に検査をすることはできない」と断られたという。
「濃厚接触者なのに検査が受けられないってどういうことなの? これが医療先進国の日本なの? 絶対に間違ってる!」と顔を真っ赤にして憤慨していたが、どこにもぶつける相手がいなかった。
 というより、政府や役人相手に喧嘩をしても勝てるわけがない。
 いや、その前に相手にしてもらえない。
 どうしようもないのだ。
 奥さんは諦めるしかなかった。
 しかし、そのことが奥さんの精神にダメージを与えているのは間違いないように思えた。

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