『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 翌日、寝不足の目を擦りながら朝食を取った。
 朝食といってもトーストと茹で卵とコーヒーだけだったが。
 今日は、農作業の昼休み時間にリーダー格の社員から電話がかかってくることになっている。
 彼らはなんらかのアドバイスを期待しているだろう。
 社長だから社員には考えつかないことを言ってくれるだろうと思っているはずだ。
 しかし、頭の中にはなんのアイディアもなかった。
 安売りスーパーとの取引懸念を伝えることしかできないのだ。
 でもそれは富裕層個人客推進派が指摘していたことだから、ただの同意に過ぎない。
 社長ならではの見解ではないのだ。
 
 さあ、どうする? 
 改めて答えを探したが、脳みそを振っても溜息しか出てこなかった。
 パソコンを立ち上げてメールをチェックしたが、昨夜のリーダー格社員からのメール以降新たなメールは受信していなかった。
 
 どこかにアイディアはないか? 
 誰かの示唆はないか? 
 しかし何も浮かんでこないので「う~ん」と唸ってパソコンの前で腕を組んで天井を見上げると、小さな蜘蛛が目に入った。
 じっとしていた。
 そのうちスーッと下りてきた。
 見えないがお尻から糸を出して下りているのだろう。
 目で追っていると、ふと、スパイダーマンの映画を思い出した。
 彼のようにビルの間を自在に飛び回って富裕層を見つけることができれば……とバカなことを考えていたら、メールの受信音で現実に戻された。

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