後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 柱に備え付けられた大きな掛け時計が零時を告げた。
 リーダー格の社員が、今日の議論はここまでにしようと提案した。
 誰も反対しなかった。
 農作業の疲れが睡魔を呼んでいた。
 もう限界だった。
 各部屋に戻った彼らはすぐに布団に潜り込み、瞬く間に眠りについた。
 しかし、B to Bか、B to Cか、夢の中で議論は続いていた。
 
 翌日も議論が続いたが、新たなアイディアは出てこなかった。
 両論併記でオーナーに相談しようか、という意見も出たが、今のレベルで相談しても却って混乱するだけだという意見が大多数で、オーナーに相談するのはもっと具体化してからということになった。
 すると、一番若い女性社員が手を上げた。
「社長に相談しませんか?」
 経営者としての視点から新たなアイディアを貰えるかもしれないというのだ。
「でもまだ早いんじゃないの」
 30代半ばの男性社員が躊躇いの声を出した。
 もっと煮詰めてからの方がいいというのだ。
「煮詰まらないから言ってるんです」
 語気を強めた女性社員は、袋小路に入った議論を打開するためには第三者の意見を聞くことが大事だと訴えた。
「それに、時間をかけて議論している余裕はないんじゃないですか」
 2番目に若い女性社員が時間切れの心配を口にした。
 危機はそこまで迫っているのだと。
「確かに、このまま議論を続けるのは得策とは言えないね」
 リーダー格の男性社員が議論を引き取った。


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