『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 早速、企画書の作成に取り掛かった。
 リーダー格社員がハウス野菜栽培会社のオーナーに説明するための資料だ。
 オーナーに納得してもらえなければこの話は進まないから、細心の注意を払ってまとめ上げなければならない。
 
 先ずは、環境及び市場分析。
 新型コロナが及ぼす全体的な影響と取引先の状況分析を簡潔にまとめたが、高級ホテルの状況については詳細に記述した。
 当面大幅な回復が見込めそうもないことを数値を用いて訴えた。
 
 次にハウス野菜栽培会社が置かれている現状と選択肢について記述した。
 これには、法人顧客推進派と富裕層個人客推進派の議論を踏まえた上で重要なものを抜き出し、箇条書きでまとめた。
 そして、それをSWOT(スウォット)に落とし込んでいった。SWOTとは、S=STRENGTH(強み)、W=WEAKNESS(弱み)、O=OPORTUNITY(機会)、T=THREAT(脅威)のことである。
 つまり、自社の強みと弱みを客観的に把握しましょう、それを機会(チャンス)に生かしましょう、脅威には備えましょう、そのためにしっかり戦略を立てましょう、ということを〈見える化〉するための分析手法だ。
 但し、分析を細かくやり過ぎると焦点がぼけてしまうので、最も大事なことだけに絞って記述した。

 ・強み…高級ブランドとしての評判が定着。有機肥料と無農薬と清潔な栽培環境管理による安心と安全のお届け。
 ・弱み…外部環境変化やアクシデントに対する危機管理が脆弱。
 ・機会…巣ごもり消費の拡大。運動不足による健康不安。安心安全への意識高揚。
 ・脅威…高級ホテルの食材需要が長期低迷する可能性大。

 分析の次は企画の全体像を示した。目的とゴールの明示である。何処へ向かうべきか、ゴールすれば何が待っているのか、ということを明確化するのだ。
 ・目的…ブランド価値を維持しながら取引先の拡大を図る。
 ・ゴール…高級ホテルの食材需要がゼロになっても完全にカバーできる売上確保。
 
 全体像を固めたあとは、より具体的な内容を示さなければならない。「誰に」「何を」「どうやって」の明示だ。
 ・誰に…自社の優良顧客(年に何度も利用してくれるリピート顧客)。
 ・何を…安心安全な環境で栽培した新鮮朝採れ野菜の提供。現地疑似体験の提供。
 ・どうやって…顧客直販(その前提としてメルマガの発信)。
 
 あとは、スケジュール。
 どのタイミングで何をやっていくのかを明示した。
① 最上位優良顧客のリストアップ
② ホームページの作成
③ 社員を岩手県のハウス野菜栽培会社に派遣したことをメルマガで発信
④ 社員たちが実際に行っている農作業の様子を発信
⑤ 同時に、古民家での共同生活の喜怒哀楽を発信
⑥ 同時に、岩手県の知られざる魅力スポットを発信
⑦ 『野菜詰め合わせ』の宅配定期サービス開始のお知らせを発信
⑧ テストマーケティングを実施
⑨ テストマーケティングの検証
⑩ 本格マーケティングの実施
⑪ 最後は、収支計画。
 これはこちらではわからないので、現在と同等の利益率になる販売方法(詰め合わせの内容や価格、経費など)の検討をオーナーに依頼することにした。
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