後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 ん? 
 優良顧客?
 あっ、優良顧客だ。
 自社に優良顧客がいた。
 優良顧客のデータベースを持っていた。
 毎年利用してくれている顧客、年に何度も利用してくれる上得意客が少なからずいるのになんで気づかなかったのだろう?
 
 レターボックスから葉書の束を取り出した。
 全部礼状だった。
 旅を満喫した顧客がお礼の絵葉書を送ってくれるのだ。
 男はそれを大事に取ってあった。
 一つ一つ読み返すと、すべてに笑顔が感じられた。
 
 男は礼状を貰う度に感激して、読み終えると頭を下げるのが常だった。
 この一人一人のお客様が会社を支えてくれているのだと思うと、いつも涙が出てきそうになった。
 彼らは今どうしているのだろう? 
 旅行ができなくなって、外出自粛でレストランでの食事やデパートでの買い物ができなくなって、ストレスを感じているのではないだろうか。
 それなら、今こそお返しをしなければならない。
 窮屈な自粛生活の中に潤いをお届けしなければならない。
 
 男は居ても立ってもいられなくなり、部屋の中をグルグルと歩き回った。
 すると、アイディアが止めどもなく溢れてきた。
 あれもできる、これもできる、あれもしたい、これもしたい、気がつくとアイディアが頭の中から溢れ出して床の上を泳ぎ回っていた。
 それを両手ですくって口の中に入れ、もう一度体の中に戻した。
 そして、To Do Listに打ち込んでいった。

< 217 / 373 >

この作品をシェア

pagetop