『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 男はホッと胸を撫でおろした。
 多くの方が好意的に受け止めてくれたので、俄然やる気が出てきた。
 期待を裏切ってはいけないと心に強く言い聞かせた。
 
 出来上がったばかりのホームページを開くと、トマトと青物野菜を両手に持つオーナーと社員の笑顔が画面いっぱいに映し出された。
 その2秒後、筆で描いたような太い文字が笑顔の後ろからズーム機能で拡大されてきた。
 男はその文字を見て思わず顔を綻ばせた。
 
『元気だ! 岩手だ! 野菜がうまい!』

 何度見ても幸せな気分になるこのコピーは最年少の女性社員が考えたものだ。

 タイトルをどうするか、社員同士で色々な案を考えたらしいが、真面目すぎるものや突飛すぎるものが多く、なかなか決まらなかったそうだ。
 そんな時、その女性社員が「野菜でみんなを元気にできたらいいですよね。岩手の美味しい野菜で元気にできたらいいですよね」と顔を紅潮させて、「『元気だ! 岩手だ! 野菜が美味しい!』ではどうでしょうか」と提案したらしい。
 それに対してほとんどの社員が即座に右手の親指を立てたらしいが、キャッチコピーに一家言(いっかげん)ある男性社員が、「『美味しい』より『うまい』の方が言葉が立つんじゃないかな」と言った瞬間、このタイトルに決まったそうだ。
 その話をリーダー格の社員から聞いた時、飛び上がるほど嬉しい気分になった。
 それは、我が子の成長を喜ぶ親の心境だったかもしれなかった。
 残念ながら子供はいなかったが……、

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