後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 その翌週、女性社員が復帰した。
 ドラッグストアの仕事も大変だったらしい。
 マスクやトイレットペーパー、ティッシュなどが売り切れる中で、喧嘩腰にクレームを付けてくる人への対応に神経をすり減らしたのだそうだ。
 それに、ドラッグストアならではの怖さもあったらしい。
 
「ドラッグストアは病気の人が来る頻度が高いので、いつも怖いなと思っていました。特に、咳をしている人を見かけた時や風邪薬の売場に立っている人を見ると、大丈夫かなと心配になりました。それに、ほとんどの人はマスクをしていますが、中にはしていない人もいて、そんな人がレジに品物を持ってくると、思わず引いてしまいそうになりました」

 ドラッグストア業界全体の売上が2桁伸びており、彼女の勤務する企業でも2割以上伸びたので、アルバイトも含めて『特別手当』という名のボーナスが支給されたらしい。
 しかし、1人2万円だったそうで、感染の危険と隣り合わせになっている仕事に対する手当としては少なすぎると、従業員は不満を漏らしていたそうだ。
 それは彼女も同じで、リスクとメリットのアンバランスに悩むようになったのだという。
「会社に復帰できてほっとしています」
 心の底からそう思っているような表情で鼻から息を大きく吐いた。

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