後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 全員が揃ったので、本社を兼ねた自宅のダイニングでささやかな食事会をすることにした。
 但し、唾が飛び交うのを避けるために、飲食の間だけマスクをずらすことにしようと男は提案した。
 すると、経理担当役員がニヤリと笑った。
「これがあれば大丈夫!」
 彼は大きな紙袋からなにやら透明なものを取り出した。
 フェースシールドだった。
 自作したのだという。
 元々は医療機関に寄付しようと思って作ったものらしいが、いざ実行に移そうとした時、急に自信が無くなって取り止めたのだと末尾の声を落とした。
「素人の手作りで安っぽいけどカンベンしてね」と声の調子を戻して渡してくれたが、中々のものだった。
 角度が調整できるようになっていて、フェースシールドを装着したままでビールを飲んだり食事をしたり出来るのだ。
 皆が感心して、誰ともなく拍手が起こったため、予想外の反応に照れた彼はしきりに頭を掻いていた。

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