後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 ビールを飲み干したので白ワインを頼むと、すぐに2皿目が運ばれてきた。
 本日のスープだった。
『ミネストローネ』
 野菜たっぷりのイタリアンマンマの味。
 心配と不安で落ち着きのない胃に温かさと優しさが染み渡った。
 
 食べ終わってスプーンを置くと、目の前の2皿が寂しそうに溜息をついた。
 大丈夫だよ、彼女は絶対来るから、彼女が食べてくれるから、
 自らに言い聞かせるように彼らを慰めた。

 しかし、それが実現しないまま3皿目が運ばれてきた。
『生エビとモッツァレラのハーモニー』
 丸く(かたど)ったモッツァレラの上に丸まった生エビ、その上にモッツァレラ、そして生エビと、紅白の4層が美しい。
 更にその上に極細のモヤシとパセリが添えられている。
 ソースはかぼちゃの実と花を煮詰めたものだという。
 優しい甘さのソースと生エビ、そしてモッツァレラが見事に調和していて、正にハーモニー。
 それに白ワインが合うこと。
 とっても美味しいよ、
 座る人のいない目の前の椅子の背に話しかけた。

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