後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 布ナプキンで口を拭き終わった時、本日のパスタが運ばれてきた。
『ウニのリングイネ』
 鮮やかなライトグリーンの皿の上にウニを(まと)ったリングイネが上品に丸まっている。
「イタリアンパセリのソースと絡めてお召し上がりください」と言われて、ハッと気がついた。
 ライトグリーンは白い皿一面に塗られたイタリアンパセリのソースだった。
 フォークを手に取ったが、壊すのがもったいなくて暫し目で味わった。
 しかし、口の中で存在感を増す消化酵素を含んだ液体と味蕾がその状態を許してくれなかった。
 ウニとリングイネをくるくるっと丸めてからソースに付けて口に運ぶと、濃厚なウニと爽やかなイタリアンパセリのソースが口の中いっぱいに広がった。
 余りの美味しさに目を瞑ると、ふっとシチリアの青い海が瞼の裏に浮かんだ。
 
 新婚旅行はミラノからシチリアまで足を延ばしたいな、
 
 まだ付き合ってもいないのに、彼女との将来を夢想した。
 その想いを壊すかのように誰かが立ち上がった。
 食事が終わったカップルだった。
 男性がカードで支払いをして、彼女と手を繋いで出て行った。

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