後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 食べ終わるのを見計らったように、『エスプレッソ』が運ばれてきた。
 これで最後だ。
 立ち上がってテーブルの真上から写真を撮ると、メニューのすべてが納まった。
『タコのグリル、ズッキーニ添え』
『ミネストローネ』
『生エビとモッツァレラのハーモニー』
『ウニのリングイネ』
『マチェドニア』
『エスプレッソ』
 記念すべき初デートを祝う特別なメニューになるはずだった。
 座ってもう1枚撮った。
 彼女の笑顔を思い浮かべて撮った。
 主のいない寂しそうな椅子の背しか写っていなかったが……。
 
 エスプレッソを飲み干して、トイレに行った。
 用を済ませて手を洗って鏡を見ると、目元がほんのり赤くなっていたが瞳は青ざめていた。
 上着のポケットからスマホを取り出して最後の確認をした。
 着信はなかった。
 邪悪な囁きが戻ってきた。
 
 ジ・エンド! 
 
 うな垂れるしかなかった。
 スマホをポケットにしまって、席に戻った。

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