後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 彼女が勤める病院と駅の中間に築3年の小奇麗なマンションを借りることができた。
 18回目からは男のマンションでデートを重ねるようになった。
 それ以来、男は料理をするようになった。
 そして、彼女が仕事を終えてマンションのインターホンを鳴らした時、完璧にテーブルセッティングされているように準備をするようになった。
 スープ、サラダ、パスタ、パンがほとんどだったが、いつも美味しい美味しいと言いながら彼女は完食した。
 
 20回目の時、彼女を玄関で迎えて「シャワーにする? それとも、ご飯にする?」と尋ねると、「あなたにする!」と飛びついてきた。
 その時の彼女のキラキラとした瞳は宝石よりも輝いて見えた。
 愛し合ったあと、2人でシャワーをし、バスタオル姿のままで乾杯した時のちょっと恥ずかしそうな表情に愛しさが込み上げた。

 まだプロポーズはしていなかったが、新婚旅行はミラノからシチリアまでを巡る旅と決めていたので、イタリア観光に関するDVDを買っては2人で見るようになった。
 こんなホテルに泊まって、
 こんなレストランで食事をして、
 こんな景色を見て、
 こんな遺跡を見て、
 こんな建造物を見て、
 こんな美術品を鑑賞して……、
 映像を見ながら夢中になって話し合った。
 そして、映像の中に引き込まれるようにお互いを見つめ合い、抱き合い、愛し合った。
 ミラノで、フィレンツェで、ローマで、ナポリで、シチリアで。

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