後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 プロポーズをしたのは100回目のデートの時だった。
 それは丁度初デートから1年目の記念日だった。
 男は意識して1周年が100回目のデートになるように調整しながらデートを重ねていたのだ。
 
 プロポーズの言葉は「君と共に人生を歩きたい!」だった。
 ロマンティックな言葉ではなかったが、初デートの時に聞こえてきた〈心の声〉だと伝えた。
 彼女の両目から溢れる涙が返事だった。
 
 2人でデパートの宝飾品売場へ行き、ペアリングを買って左手の薬指にはめた。
 そして、新婚旅行はミラノからシチリアまでを巡る旅をしたいと告げた。
 するとまた彼女の両目から涙が零れ、その奥で瞳がゆらゆらと揺れた。
 そして、「こんなに幸せでいいのかしら……」と込み上げる思いが満ちて溢れるような声が漏れた。

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