後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 葬式の間、遺影をずっと見ていた。
 恥ずかしそうに微笑んだその顔は男が撮った写真だった。
 病気になる前の一番輝いていた時の写真だった。
 そして、宝物の写真だった。
 
 焼香の順番が来た。
 親族が終わって最初に焼香台の前に立った。
 一礼をして数珠を左手にかけ、右手で抹香(まっこう)をつまんで額に付けるようにした。
 それを香炉の炭の上にくべて合掌した。
 しかし、目は閉じなかった。
 一心に遺影を見つめて話しかけた。
 
 愛してるよ、一生愛し続けるからね、
 
 誓いを立てて頭を垂れた。
 そして、遺族に一礼して席に戻った。

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