後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 部屋に入って、小さなテーブルの上にサンドイッチとビールを置き、その向こう側に彼女の写真と形見のビニール袋を置いた。
 乾杯、
 彼女の写真に向けて缶を掲げた。
 いただきます、
 サンドイッチを掲げた。
 明日から始まるよ、
 シチリアまでの旅を彼女に説明した。
 一緒だからね、
 呟いた瞬間、彼女の顔が揺れて見えた。
 すると、喉の奥から何かが込み上げてきた。
 それを押し止めようとビールを流し込んだが、口の中に苦味が広がっただけだった。
 
 すぐに頭を振った。
 ダメだダメだ、
 彼女に見えるように右手をゲンコツにして頭を叩いた。
 楽しい旅にしなきゃね、
 無理矢理笑みを浮かべた。
 そのあとはボーっとテレビを見ていたが、機中で眠らなかったせいか、徐々に瞼が重くなってきた。
 睡魔に抱かれるのに時間はかからなかった。

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