後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
「いらっしゃい」
 店の中に入ると、威勢のいい声が飛んできた。見ると、鉢巻を巻いた若衆が奥の囲炉裏で色々な食材を焼いていた。
 さて、何を頼むか。
 カウンターに座った男は壁に貼られたメニューを左から右へ目で追った。
 すると、『本日のおすすめ』という強調された文字が目に入った。
 刺身の盛り合わせ、季節の焼き魚、カキやホタテ、紅鮭、焼肉などが付いて税抜き4,100円。
 なるほど。
 その横に目をやると、『極旨コース』とこれまた強調された文字があった。
 ザンギ盛り合わせや鮭のちゃんちゃん焼きなども楽しめるようだ。
 価格は税抜き5,200円。
 さ~どうする? 
 本日のおすすめか極旨コースか、どっちだ。
 暫し考えた。
 考えたが、男は〈おすすめ〉という言葉に弱かった。
 極端に弱かった。
 これには逆らえない。
 あっさりと白旗を上げた。

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