後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 ステージを見ると、既にピアニストの姿はなかった。
 それに、もうアンコールはありませんよ、というように照明が明るくなった。
 それに促されるように客が立ち上がったので、男も立ち上がろうとした。
 しかし、彼女の囁きがそれを止めた。
 
 素敵な夜をありがとう。
 男は再び腰を下ろして彼女に向き合った。
 どういたしまして。
 すると、彼女の明るい声が耳に届いた。
 また連れて来てね。
 男は大きく頷いた。
 そうだね、また来ようね。
 客が次々に立ち上がる中、男は写真を手に持って彼女との会話を続けた。

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