後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 翌日、フィレンツェに到着した男はホテルに荷物を預けてミケランジェロ広場に急いだ。
 アルノ川を渡った小高い丘にある広場からの眺めは最高だった。
 風薫る5月、爽やかな風が川面から吹き上げて彼女の頬を撫でていた。
 
 花の都が一望できるだろう。
 ナイチンゲールが生まれた町だよ。
 ルネサンスが始まった町だよ。
 写真の彼女に語りかけた。
 川の反対側にあるのがウフィツィ美術館で、その後ろがヴェッキオ宮殿。
 そして、更に後ろにあるのが花の聖母教会だよ。
 彼女が頷くのを見て、男は西の方を向いて大きな建物を指差した。
 あそこがピッティ宮殿だよ。
 あの中にあるパラティーナ美術館に君の大好きな絵が飾ってあるんだよ。
 すると彼女のねだるような声が聞こえた。
 早く見てみたいわ。
 わかった、すぐに行くからね。

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