後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 店から出た途端、零度を下回る外気がコートの上から男を抱いた。
 ほろ酔いだったが一気に素面(しらふ)に戻された。
 見上げると空には星が瞬いていた。
 なんていう名前の星なんだろう? 
 すばるかな? 
 オリオン大星雲かな? 
 でも、裸眼で見えるわけないか。
 溜息をついたら、白い息が目の前を覆った。
 
 冷気に追い立てられてホテルに戻った男を暖房が心地良く迎えてくれた。
 こんな時は人肌が恋しくなるな……とロビーを見渡してみたが、新聞を読んでいるオジサン一人とフロントの若い男性しか目に入らなかった。
 これが現実だよな~。
 男はエレベーターで5階まで上がった。

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