後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 なんの解決策も浮かばないまま時間だけが過ぎていったが、ある日突然岩手の女性社員から答えがもたらされた。
 野菜を休眠状態にできる技術情報をネットで見つけたというのだ。
 それは、一見なんでもない透明なフィルムの中に秘密が隠されていた。
 肉眼では確認できない微細な穴が無数に空いており、その穴によって二酸化炭素の濃度が調整できるのだという。
 
 野菜の鮮度は周りにある酸素や二酸化炭素の量に左右される。
 常に空気に触れて周りに酸素がある状態では呼吸が進んで腐敗が加速するし、逆に、密封して酸素を遮断すれば酸欠状態になって腐敗が進む。
 だからどちらの場合も時間を追って新鮮さが失われていく。
 それに対して、酸素濃度と二酸化炭素濃度を最適に調整することができれば野菜を休眠状態にでき、新鮮さが長続きするというのだ。
 その濃度は、酸素で5~10パーセント、二酸化炭素で10~15パーセントであるらしい。
 
 彼女は早速そのフィルムを取り寄せて配送実験にとりかかった。
 男の自宅兼本社を届け先として比較実験を行うのだ。
 離島からの注文があることを考えて、宅配便を使って収穫の5日後に届く野菜と定期便を使って収穫当日に届く野菜の鮮度を比較するものだった。

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