後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 ふと寒気(さむけ)がして目が覚めた。
 2時間ほど眠ってしまったようだ。
 暖房をつけていたが、部屋の温度はぬるいお湯のようだった。
 旧式のセントラルヒーティングではこれが限界なのだろう。
 この値段で文句を言っても始まらない。
 備え付けのポットでお湯を沸かして体を中から温めることにした。
 
 空港の売店で買った焼酎をテーブルの上に置いた。
 飲みきりサイズのペットカップだ。
 ガラスコップの三分の一くらいのところまで注いで、その上からお湯を足した。
〈お湯が先で焼酎があと〉というのが本当の割り方らしいが、男にはどうも馴染めなかった。
 逆の方がしっくりくるのだ。
 邪道と言われても関係ない。
 人に迷惑をかけるわけではないのだから、自分のやりたいようにやればいいのだ。
 そう、私は私だ。

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