後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 出発して10時間が過ぎた。
 ナビの時計は18時38分と表示していた。
 元気に運転していた奥さんもさすがに疲れを隠せないようで、首を左右に動かしたり、目をしばたかせるようになった。
 それに辺りは一気に薄暗くなってきた。
 これ以上の運転は危ないと判断したようで、インターチェンジを降りた所でホテルを探すことにした。
 
 5分ほど走ると、夕暮れに同化するようなグレーのホテルが目に入った。
 道路を左折して駐車場に入り、正面玄関に一番近いところで車を止めた。
 築年数の古そうなこじんまりとしたホテルだった。
 
 部屋は空いていた。
 朝食付き1泊6,800円で前金ですとフロントで言われた。
 奥さんが現金で支払って鍵を受け取り、エレベーターで3階まで上がって部屋に入った。
 
 狭い部屋にツインのベッドが置かれていた。
 ちょっと(かび)臭かったが、そんなことはどうでもよかった。
 奥さん、そして女の順にシャワーを浴び、スキンケアをしたあと、ほぼ同時にベッドに潜り込んだ。
「おやすみなさい」とだけ言って目を閉じると、すぐに眠りに落ちた。
 奥さんがどうだったのかは知る由もなかった。

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