後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 予定通り10日に荷物を受け取った。
 掃除は完璧に終わっていた。
 細かい所の補修がまだ途中だったが、家具の設置には支障がなかったので、奥さんが考えていた通りに置くことができた。
 
「ピアノが2台あると豪華ね」
 娘さんが弾いていたアップライトピアノと女の電子ピアノが2台並んでいた。
「お客さんとあなたが共演する姿が目に浮かぶようだわ」
 宿泊客が自由に演奏できて、いつでも音楽に溢れる宿にしたいと笑った。
 将来は、ギターやバイオリンも揃えたいという。
「そうなると、ピアノの宿ではなくて音楽の宿ですね」
「いいえ、色々な楽器が揃ったとしても『ピアノの宿』という名前は変えないわ。あくまでも主役はピアノよ」
 娘さんが愛したピアノ、娘さんの演奏を愛した奥さんとご主人、その想いが溢れているように思えた。

< 330 / 373 >

この作品をシェア

pagetop