後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 体温よし! 
 咳・クシャミなし! 
 体調不良なし! 
 
 チェックリストを見ながら声出し確認をした。
 岩手への移転を決めてから毎日欠かさずチェックを行っているのだ。
 万が一にでも岩手に新型コロナウイルスを持ち込んではならないので、念には念を入れていた。
 今日の体温は35度8分。
 正に平熱だった。
 体調にはなんの問題もなかった。
 
 よし行こう。
 男は車のアクセルを踏み込んだ。
 
 東北道は混雑のかけらもなかった。
 途中2回休憩を入れたが、それでも8時間で盛岡南インターチェンジに到着した。
 
 一般道に下りると、社員6名が住む古民家を目指して北上川を超え、リンゴ園を横に見ながらナビの指示に従って車を走らせた。
 
 小高い山のふもとにある古民家に着くと、社員が全員で出迎えてくれた。
 その笑顔と健康そうな小麦肌に接すると、運転の疲れがすべてどこかに飛んでいった。

< 336 / 373 >

この作品をシェア

pagetop