後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 翌日、荷物を受け取った。
 といっても私物だけだ。
 ネットで注文した中古のオフィス用品は明日届く予定になっている。
 私物にしても、半分は東京に置いてきた。
 当分の間は岩手にとどまるが、東京の感染者数が落ち着いてきたら行ったり来たりの生活になる可能性が高いからだ。
 ベッドは東京に残してきたから、ここでは畳の上に布団を敷いて寝ることになる。
 何十年振りだろうか……、
 小さい頃を思い出した。
 
 それとステレオも東京に置いてきたので一体型CDコンポが音楽の友になる。
 しかしコンポといってもスピーカーの世界的メーカーが開発したものなので、音質のレベルはメチャクチャ高い。
 音の広がりも半端ないので、8畳で聴くには十分だ。
 早速今の気分に合うものを探すとすぐに見つかった。
『GOOD DAY』
 ピーター・ホワイトのアルバムだ。
 スムーズジャズ界のスーパースターとして活躍している彼のナイロン弦ギターの音色は優しくて温かい。
 セットしてプレイボタンを押すと、1曲目が始まった。
 タイトルナンバーだ。
 軽やかなパーカッションに導かれて彼のギターがイントロを奏で始めた。
 あ~幸せ。
 自然に体が動いて頬が緩む。淹れたてのモカを飲みながら幸せな気分に暫し浸った。
 
 5曲目が終わった時、リーダー格社員が顔を見せた。
 古民家宿を始めたいという顧客との面談日時を決めたいと言うので、相手が希望する候補日から最短の日時を迷わず選んだ。
 善は急げ、という諺もある。
 というより待ち切れなかった。
 新たな挑戦にワクワクしていた。
 リーダー格社員がそれを送信すると、すぐにOKの返信が来た。
 面談は3日後に決まった。

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