後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 雲の中に達した時、風の流れが変わり、南の方から吹き始めた。
 それに乗って雲と共に北北東へ流されると、徐々に雲が薄くなっていき、跡形もなく消えた。
 すると風の代わりに温かい空気が絨毯となって2人を乗せた。
 下を見ると、海が黄金色にキラキラと光っていた。
 太陽が沈むところだった。
 見惚れていると、彼女が男の手を下に向けた。
 するとゆっくりと降下を始め、砂浜が近づいてきた。
 
 砂の上に降りた瞬間、空気の絨毯が消え、手を離した彼女が顔を近づけてきた。
 唇が頬に触った。
 冷たい唇だった。
 右手で男の顔を横に向け、人差し指で唇を触った。
 冷たい指だった。
 唇が重なると、余りの冷たさに凍えた。
 それでも男がじっとしていると、キスをしたまま体を倒され、砂に背を付けた男の上に彼女が体を重ねてきた。
 胸の鼓動は感じられなかった。
 ただ冷たさだけが全身を覆い、まるで凍り付いた洞窟の中で抱き合っているように思えた。
 太陽は沈みかけようとしていた。

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