『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
        ♪ 男 ♪

 車から10メートルほど行った時、突然、稲妻が光り、轟音が響いた。
 身がすくみそうになったが、この近くに落ちたのではないかと心配になって辺りを見回した。
 しかし、木は燃えておらず、倒木もなかった。
 ほっとして歩き出したら、すぐに稲妻が光り、また轟音が鳴り響いた。さっきよりも遥かに大きな音だった。
 もしかして、と不安になって急いで車に戻り、助手席の窓から社員の様子を覗き見た。
 しかし、よくわからなかった。
 急いでリアから車の中に戻って彼の口に耳を近づけると、息をする音が聞こえた。
 大丈夫だ。
 雷が車に落ちていたとしても影響はないようだ。
 ほっとしたが、胸騒ぎがした。
 更なる危険が迫っているのかもしれない。
 こうしてはいられない。
 一刻も早く助けを呼びに行かなくてはならない。
 
 焦りに押されて慌ててリアから外に出ようとした。
 しかし、それがいけなかった。
 窓枠に置いていた左足が滑って変な角度で右膝から落ちた。
 痛みが走った。
 強い痛みだった。
 背中を沢の水が通り過ぎるのを感じながら、仰向けになったまま膝の痛みに耐えた。

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