『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 ほとんど何も見えない中、懸命に探したが、必要とするものは見つからなかった。
 それでもなんとか気力を振り絞って進んでいったが、いきなり足を取られた。
 あっという間もなく前のめりに倒れ、顔が沢の石に激突した。
 すぐに鼻が疼き始めた。
 同時に中から何かが流れだした。
 鼻骨が折れて鼻血が出てきたに違いなかった。
 それに、中が腫れてきたのか、鼻で息ができなくなった。

 なんでこんな目に合わなきゃならないんだ!

 惨めな声が出たが、それでもじっとしているわけにはいかなかった。
 立ち上がるために両手を体に引き寄せた。
 その時、何かが左手に触れた。
 枝だった。
 何本かが絡み合うように水に洗われていた。
 車が落ちた時になぎ倒したものかもしれなかった。
 適当なものを手に取って沢に突き立てると、曲がることなくしっかりとしていた。
 もう1本も同じだった。
 これならなんとかなるかもしれないと思い、杖にした枝と左足で斜面に向かった。

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