『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 5時前になった。
 雨は降り続いていたが、視界は十分確保できるようになった。
 捜索隊が警察署を出発すると、社員たちを乗せた車がそのあとに続いた。
 
 脇道に入った。
 その途端、道はぬかるみ、速度を落としてもハンドルを取られそうになった。
 のろのろと進んでいったが、いきなり先頭の車が止まった。
 どうしたのかと助手席の社員が見に行くと、道の真ん中で50センチくらいの岩が通せんぼしていた。
 それをどかそうと若い捜索隊員が谷の方へ動かし始めたが、「谷へ落とすんじゃない!」という捜索隊長の怒鳴り声に隊員が縮こまった。
「崖に岩を転がすとどんなことが起こるかわからないだろう。それに、その真下に彼らがいるかも知れないんだぞ」と怒鳴り声が続いた。
 場数を踏んだ隊長には、何をすべきか、何をすべきでないのか、よくわかっているのだろう。
 隊員は指示通り山側に岩を動かして車を通れるようにした。
 
 少ししてカーブのある所に差し掛かった。
 右の方へ廻っていくと視界の先に開けた所が見えてきたが、また先頭の車が止まった。
 社員が見に行くと、異様なものが横たわっていた。
 イノシシだった。
 物凄く大きなイノシシが倒れていた。


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