後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 1年後、男は昨年と同じホテルで行われたテレビ局主催の広告賞授賞式に参加していた。
 まったく同じ日だった。
 そして、大賞は予想通り大手電機メーカーだった。
 社長のスピーチは去年とほとんど同じだった。
 出来レース。
 広告の内容ではなく、出稿量で大賞が決まっているのは明らかだった。
 少なくとも男にはそう思えた。
 
 懇親会が始まった。
 乾杯の挨拶が始まるとすぐに料理ブースに並んだ。
 今日は寿司とローストビーフと伊勢海老を食べなければやっていられない。
 出来レースに1時間も付き合ったのだから、そのくらいは当然だ。
 しかし赤ワインは取らなかった。
 スーパーで500円くらいで売っているようなものを有難くいただくわけにはいかない。
 ウイスキーの水割りで喉を潤して料理をがっついた。
 
 食べ終わったらもう用はないので、さっさと懇親会場を抜け出した。
 すると、昨年と同様、チャイナドレスのホステスが紙袋を渡してきた。
 受け取って中を覗くと昨年より小さな包みだった。
 でも、それでほっとした。
 3年連続シュークリーナーセットではたまらない。

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