後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 イギリス船籍のクルーズ船『ダイヤモンドプリンセス号』が2月3日に横浜港に寄港した。
 乗船していた80歳の男性が新型コロナウイルスに感染していたことが判明したが、既にその男性は香港で下船していた。
 しかし、乗船中に咳などの症状を呈していたことから、他の乗客への感染が強く危惧された。
 そのため発熱などの症状を有している人や濃厚接触の可能性がある人を対象に船内で検査が行われると共に、乗客の下船を見合わせる旨の発表が為された。
 
 2月5日、検査結果が公表された。
 10名が感染していた。
 彼らは全員、神奈川県内の指定医療機関に搬送された。
 
 大変なことが起こりそうだった。
 なにしろ、この船には3,700人を超える乗客乗員が乗っているのだ。
 それも船内という限られた空間の中で飲食や娯楽、運動を共にしているのだ。
 感染者が10名で終わるわけがなかった。
 
 仕事どころではなくなった。
 ニュースに釘付けになった。
 しかし次の予定が迫っていた。
 沖縄の取材開始が明日からなのだ。
 気になりながらも取材準備に頭を切り替えた。


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