後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 18歳になって間もなくの頃、父親が亡くなった。
 それは、あまりに突然のことで受け入れることができなかった。
 人一倍健康に気を遣っていたし、食事に気をつけていたし、運動を日課にしていたし、どんなに夜遅く帰ってきても翌朝のジョギングは欠かさなかった。
 父が死ぬなんて信じられなかった。
 
 女が小さな頃は、シャツの袖をまくって力こぶを作って自慢していたものだ。
 女はその力こぶに手をかけてぶら下がるのが好きだった。
 おっきくて頼もしい父が大好きだった。
 友達に自慢さえしていた。
 世界で一番の父親だと思っていた。
 しかし、その父は突然いなくなってしまった。
 お客さんのピアノを調律している時に急に倒れたのだという。
 急性心臓死。
 そんな病名は聞いたこともなかったが、心臓が突然止まってしまう病気だという。
 でも、健康診断でなんの異常もないと自慢していた父の心臓が急に止まってしまうなんて、どう考えてもあり得なかった。
 その日の朝も一緒にご飯を食べて送り出してくれたのだ。
 とても元気で冗談まで言っていたのだ。

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