後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 突然爆音が聞こえた。
 戦闘機だろうか? 
 普天間基地だけで1日に400回以上発着することもあるらしいから、そうに違いない。
 男は耳を塞いで守礼門をくぐった。
 
 暫く歩くと、『歓会門(かんかいもん)』が見えてきた。
 首里城の城郭に入る第一の正門で、この名前には〈中国皇帝の使者の歓迎〉という意味が込められている。
 石を積み上げた高い塀に囲まれた門で、その両側には石造(せきぞう)の獅子像『シーサー』が門を守っている。
 そこを抜けて石段を上っていくと、朱に塗られた門に到着した。
〈立派な、めでたい泉〉という意味を持つ『(ずい)泉門(せんもん)』だ。
 更にそこを抜けて石段を上がると、『漏刻門(ろうこくもん)』が見えてきた。
 漏刻とは、中国語で〈水時計〉の意味だ。
 時を知らせる役人がいたのだろう。
 
 門を抜けると、景色が一変した。
 燃えて崩れ落ちた屋根や瓦。
 焼け残った部分との対比が痛ましい。
 焼け焦げた臭いが微かに漂っているような気がした。
 火事は恐ろしい……、
 息を呑んで立ち尽くすと、あの日の朝、出勤前に見たニュース映像が蘇ってきた。

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