後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 燃えていた。
 世界遺産が燃えていた。
 築850年を超えるゴシック様式の建造物が燃えていた。
 高さ96メートルの尖塔が真っ赤な炎に包まれて落ちていった。
 こんなことってあるのだろうか?
 目を疑った。
 ありえない!
 見ているものを信じられなかった。

 フランスだった。
 パリだった。
 セーヌ川だった。
 中州に浮かぶシテ島だった。
 2019年4月15日だった。
 18時50分だった。
 ノートルダム大聖堂が出火した。
 1時間もしないうちに大きな炎を上げて燃え始めた。
 30分も前に火災警報アラームが鳴ったのに……、
 異常を確認できなかったなんて……、
 もしスプリンクラーがあったら……、
 もし……、

 しかし、タラレバをいくら繰り返しても元に戻ることはない。
 取り返しのつかないことが、
 あってはならないことが、
 してはいけないことが起こってしまったのだ。

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