後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 瞼を開けると、首里城の焼け跡が目に戻ってきた。
 これも原因不明か……、
 先日発表された沖縄県警の捜査終了時コメントを思い出していた。
 ノートルダム大聖堂と同じく原因不明。捜査を尽くしたあとの結果なので受け入れるしかないのだが、今1つ釈然としないものを感じざるを得なかったし、出火原因がわからないまま復興作業に着手することが本当にいいことなのだろうか? また同じ間違いを繰り返すことにならないだろうか? という疑問が消えることはなかった。
 そんなことを考えていると、痛ましい姿を(さら)している首里城が可哀そうに思えてきた。
 戦争で焼かれて、原因不明の火事で焼かれて、それでも何も言わずに立ち尽くす首里城。
「いい加減にしてくれ!」と叫んでもいいんだよって心の中で声をかけたが、当然のことながらなんの返事も返ってこなかった。

 可哀そうに、と心の中で呟いたが、観光資源によって飯を食わしてもらっているのになんの力にもなれない情けない自分に溜息が出た。
 一気に力が抜けてボーっとなってきた。
 これ以上ここにとどまることはできなかったので、重たい足を引きずるようにしてホテルに戻った。

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