後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
          ♫ 女 ♫

 あっ、ミモザの蕾。
 わたしの大好きな花。
 ふわふわと溢れんばかりに咲き、春呼(はるよぶ)(はな)と勝手に命名しているミモザの黄色い蕾がかなり膨らんでいた。
 あと2週間もすれば開花の時期を迎えそうだ。
 
 アパートから駅に向かう道の途中にその家はあった。
 花屋敷と呼んでもいいほど四季の花が咲き乱れる家。
 ミモザの大樹がシンボルツリーになっている家。
 ミモザが咲き終わると桜が花開き、それが終わると、ジャスミンとバラが塀や庭を埋め尽くす。
 そんな見事な庭を手入れしているのはいつもご主人。
 手入れを怠らないその姿勢にいつも感心してしまう。
 小まめに花がらを摘んでいるので萎れた花を見たことがないし、花が終わったあとの切り戻しも思い切りがいいので、それが翌年の見事な開花に繋がっている。
 それに、団塊世代より少し若いくらいのご主人のオーバーオール姿も可愛らしい。
 まだ一度も言葉を交わしたことはないけれど、この家の前を通るたびに素敵な気持ちになれる。
 だから、心の中でいつもありがとうと言っている。
 
 実は、花屋敷のご主人を見かける度に心が揺れる。
 もちろんそれは恋ではない。
 それは多分、父性に対する感情なのだと思う。
 どこか父に似ているご主人に、在りし日の面影を投影しているのだと思う。

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