後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
 最寄り駅で降りて10分ほど歩くとマンションが見えてきた。
 しかし、目指す部屋に明かりはついていなかった。
 当然だ。
 独り身の男を待っている人はいない。
 そして、殺風景な部屋に温かさは微塵もなかった。
 
 2LDKの部屋にあるのは、台所用品や水回り関連製品を除くと、セミダブルベッドとソファとローテーブルと本棚、そして、テレビとステレオと1体型CDコンポとノート型パソコンだけだった。
 
 リビングの明かりを点けて、
 エアコンの暖房をONにして、
 テーブルの上に紙袋を置いた。
 広告賞授賞式の手土産が入っている紙袋だ。
 中から小さな包みを取り出して包装紙を剥がすと、ソムリエナイフ型のワインオープナーがお出ましになった。
 柄の部分が木製になっているちょっと高級そうなものだった。
 但し、テレビ局のネームが印刷されていた。
 センスないなあ。
 男が毒づくと、ソムリエナイフは無言で顔をしかめた。
 自分のせいじゃないというように。

< 8 / 373 >

この作品をシェア

pagetop