後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
歩き出すと、もうそれ以上は追いかけてこなかった。
ほっとした。
しかし、駅に向かって歩いているつもりが、どこを歩いているのか急にわからなくなった。
見慣れた景色なのに方向感覚がまるでないのだ。
突然、眩暈がした。
とっさに歩道に植えられた樹木に手をついて体を支えたが、足元がふわふわと揺れているような感じがして立ち続けることができなくなり、樹木にしがみつくように体を預けて目を瞑ってじっと耐えた。
けれども改善する気配はまったく感じられなかった。
そればかりか吐き気を催して胃液が上がってくる感じがしたので、すぐに右手で口を押さえて身構えた。
しかし何も出てこなかった。
嘔吐したほうが楽になるのにと思ったが、体の反応は何故か治まっていった。
ふわふわ感が消え、眩暈もなくなった。
しかし、心がどうにかなっていた。
自分の中にないのだ。
ぽっかり穴が空いていた。
あの時のように、
父を亡くした時のように、
ぽっかりと、
本当にぽっかりと空いていた。
ほっとした。
しかし、駅に向かって歩いているつもりが、どこを歩いているのか急にわからなくなった。
見慣れた景色なのに方向感覚がまるでないのだ。
突然、眩暈がした。
とっさに歩道に植えられた樹木に手をついて体を支えたが、足元がふわふわと揺れているような感じがして立ち続けることができなくなり、樹木にしがみつくように体を預けて目を瞑ってじっと耐えた。
けれども改善する気配はまったく感じられなかった。
そればかりか吐き気を催して胃液が上がってくる感じがしたので、すぐに右手で口を押さえて身構えた。
しかし何も出てこなかった。
嘔吐したほうが楽になるのにと思ったが、体の反応は何故か治まっていった。
ふわふわ感が消え、眩暈もなくなった。
しかし、心がどうにかなっていた。
自分の中にないのだ。
ぽっかり穴が空いていた。
あの時のように、
父を亡くした時のように、
ぽっかりと、
本当にぽっかりと空いていた。